最尤判定法    Maximum likelihood sequence detection (symbol by symbol,  M-ary,  OFDM  )

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 ディジタル伝送の最終評価は誤り率で決まります。 シンボル判定の誤り率であったり、それをビット当たりに換算したビット誤り率であったりしますが、大変基本的なことなので、ちゃんと定義しておく必要があります。 シンボル誤りからビット誤りへの換算は多様性が大きいので(ディジタル通信の速度限界参照)、シンボル誤り率に絞りましょう。

”シンボル”は、それを物理的な電圧に対応させて送受信します。 たとえば、8値シンボル(3ビット)がパルス電圧値、 ボルトのどれかに対応するといったように。 この物理的な電圧値をもつシンボルを は時刻)で表します。  を送信して、受信器がそれを と判定したとき、 となる確率をシンボル誤り率と定義します。

「う〜ン・・・なんだかぁ〜具体的じゃないな・・・」

確かに、間違いではないけど、あまりにもそっけないですね。

        シンボルが次々と送信される
        => そのパルス列である連続信号を受信する
        => 雑音が乗っている
        => チャンネル歪もある
        => 適当な位相で受信信号をサンプルする
        => そのサンプル値列を最適な方法で判定する

このプロセスをイメージすると、

「一個のシンボルを送って判定するという単純な話じゃないんだー!」

ということに気づきますね。 要するに、上のプロセスを踏んで、”均(ナラ)しでシンボルが誤る確率” ということなんですね。

「では、その意味の誤り確率を最小にする判定法をどうやって設計するの?」

腰を据えて、具体的に考えないとダメみたいですね。 あえて、混乱を承知でいえば、「最近、M元伝送(多重化するときはCDMA)やOFDMといったブロック伝送が目白押しだけど、まとめて考えましょうよ!」 といいたくなりますね。 でも、さすがに並行解説は大混乱になりかねないので、最後に回します。

上のプロセスの「適当な位相で受信信号をサンプル」した結果が次のように表わせるとします。

ここで、送信シンボル系列 はランダム、 はチャンネルの歪み応答 をシンボルの送信周期 ()でサンプルしたもの、 は加法的白色ガウス雑音 ( Additive White Gaussian Noise:: AWGN ) としておきます。 もし、ナイキスト条件を満たしていて、サンプリング時刻が理想的に のとき、, () なので、上の式は

となり、シンボルごとの誤り率を問題にすればいいのでスッキリします。 実際には、チャンネル歪みのためにナイキスト条件は満されないので、等化器を使って、式(1)を式(2)の形に変換します。 ただし、厳密に言えば、等化器は誤り率を最小にする意味で必ずしも最適ではないので、直接的に誤り率最小化を考えてみます。 まず、式(2)について誤り率を最小にする判定法を導き、次に、その判定法を式(1)のケースに拡張しましょう。

送信レベルを 、 判定結果を で表します。 誤りは、 が起きることですから、誤り率は、これが起きる同時確率の総和

になります。 また、正答率は、 となる同時確率の総和

です。 いま、受信者は送信レベル を知らないので、目的は

受信信号 から、正答率(4)を最大にするように を判定すること

といえます。 判定結果 を、もっとも高い確率で に一致させることと、事後確率 を最大にする を選ぶことは同義ですから、最適判定は

を満たすレベルを選択することになります。

img2.gif

実際には、事後確率のテーブルを予め作っておきますが、それはベイズの公式から次の式で計算できます。  は連続分布する受信信号ですが、適当に量子化しておきます。 条件付確率 は、予め数式で与えられるか、または多くの実験データから得られるものとします。

雑音がAWGNのときは、

で計算します。  は雑音電力です。 実際には、受信信号  は固定されているので、式(6)あるいは(7)の分母 は不要です。 以上のような判定法を最大事後確率判定法 (Maximum Aposteriory Probability detection : MAP ) と呼んでいます。

注1:一般的に加法的”有色”ガウス雑音としたMAPの原理は最大事後確率判定法を参照。

もし送信レベルが等確率ならば、 は判定に無関係なので、用意するテープルは条件付確率

だけで済みます。 これは、条件付確率の結果を固定し、原因を変数としてサーチしています。 このような関数を尤(ユウ)度関数 (liklihood function ) と呼んでいます。 そして、この判定法を最尤(ユウ)判定法 (Maximum Likelihood Detection: ML ) と呼んでいます。 さらに、式(8)の最大化は

と同じですから、テーブルを用意しないで、単に受信信号に一番近いレベルを判定すれば済むことになります。

注2: ほとんどのディジタル通信では、スクランブラーによってレベル値はランダム化され、等確率です。

注3: 光ファイバー通信では、雑音は光の強度に応じて変化するのでAWGNは仮定できません。 一般に、無線通信や金属線通信などの設計ではAWGNを前提としています。

上で述べたスカラーの判定を多次元へ拡張することは(式(1)へ拡張することは)簡単です。 以下に、MLを拡張します。 MAPの多次元は計算量が多くなり、あまり実用されていないので省略します。 実際の通信では、永遠にデータが送信されるとしてMLのアルゴリズムを実行するわけですが、ここでは原理の理解のため、有限長のシンボル系列を前提にします。 長さ のシンボル系列をベクトル 、AWGN系列をベクトル で表すと、受信信号ベクトルは次のようになります。

この場合、条件付確率は

と書けますが、上で述べたように、単に

によって系列 を判定すれば済みます。 チャンネル応答 ( ) を既知としています。 ただし、判定は 個のすべての候補について実行しなければならないので、現実的ではありません。 このような判定を、最尤系列推定 (Maximum Likelihood Sequence Estimation: MLSE ) と呼んでいます。 判定器の概念図を下に示します。 たとえば、レベル数を4、シンボル長を8とすれば、サーチする系列候補の総数は になります。 シンボル長が長くなるとたいまち計算量は爆発してしまいます。 もし、この計算量をシンボル長に比例するようにできれば、いくらシンボル長が長くなっても平気です。 これに関しては、ビタビ・アルゴリズムを参照してください。

img1.gif

以上は、実シンボルを対象にしていますが、複素シンボル(QAM)への拡張は簡単なので省きます。

注4: チャンネル応答が未知の場合はブラインド系列推定の問題になり難しくなります。 ブラインド問題から入ってください。

さて、M元伝送 (M-ary transmission ) のMLSEを当たってみましょう。 M元伝送は、これを多重化と見做した場合はCDMAに相当します。 CDMAの復習(ここでは多値化します)を兼ねて、簡単に原理を説明します。 長さNのパルス列フレーム

を用いてシンボル(上でいうレベル ) を送ります。 パルスの振幅 はどんな実数値をとってもかまいませんが、N次元ベクトル は最大N個しかとれません。 それらを

で表すと、送信信号(長さNの信号)は次のようになります。

ここで、 は送信データの物理的レベルを表し、そのレベル数をすべての について とすれば、 が運ぶ情報は ビットになります。  のパルス数はN個なので、1個のパルスが運ぶ情報は、結局 N ビットになり、上で述べたシンボル毎の伝送と同じであり、損得はありません。 やはりAWGNを仮定し、受信信号を

とすると、この場合のMLSEは前述と同じストーリーであり、

のように書けます。 この最小化を満たす を総当りで選ぶのは、  個の候補すべてに対して計算する必要があり、現実的ではありません。 とりあえず を連続変数と見做して式(17)を最小にする解を求め、この近傍で最適レベルをサーチする方法が有効かと思われます。 通常、この判定は等化または Rake を前提にして、相関(内積)によって実現します。 すなわち、受信信号を等化または Rake し、それと の内積をとりレベル を引き出します。

等化では、逆行列 が非正則に近いと雑音成分(右辺第2項)を増幅する恐れがあります。 また、Rake では、右辺第1項で正確に直交分離できないことが問題となります。 ともに、計算の簡単化と引き換えに、MLSEよりも誤り率が劣化します。

最後に、OFDMのMLSEを当たってみます。 OFDMの原理は、送信シンボル列 を周波数領域で与え、これを離散フーリエ変換して時系列を作って送信します。 したがって、M-ary transmission と同様、フレーム伝送のタイプです。 受信は、このフレームを切り出し、逆離散フーリエ変換してシンボル列を判定します。 したがって、MLSEは、逆離散フーリエ変換行列を で表し、これが正規直交行列なので、次のようになります。

 

これは式(12)とまったく同じです。

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